約 1,207,113 件
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/476.html
【逝く夏とともに】/恵千果◆EeRc0idolE 夏休み最後の日曜日、せつなとラブは、美希とともに祈里の家にお呼ばれしていた。 「ヤッホー、ブッキー」 「お邪魔しまーす」 「ブッキー、こんにちは」 「いらっしゃい!」 笑顔の祈里が、元気いっぱいに出迎えた。 身につけているのは、彼女をいちばん美しく見せる色。 爽やかなライムグリーンのブラウスに、レースをあしらったクリームイエローのミニスカートを合わせていた。 その装いはまるで、駆け抜けようとしている夏を惜しむ花の精のような、そんな儚さをたたえている。 彼女は今日、みんなを精一杯もてなそうと張り切っていた。 昨日から父や母を手伝い、余念なく準備をしていたのだ。 みんな、喜んでくれるかな?ふふっ。 みんなの驚いた顔を思い浮かべると、自然と浮足立ってくる。 今にもはしゃぎ出しそうな祈里を見て、お客の3人は口々に言う。 「ブッキー、今日の服とっても可愛いね!」 「ほんとね」 「おめかしして、スキップまでしちゃって、何かいいことでもあった?」 「いやだなー、何にもないよ。ただ皆と楽しく過ごしたいだけだってば」 話しながら4人が辿り着いたのは、山吹家の裏庭。 その真ん中に鎮座しているのは、若草色の装置だ。それを初めて見たせつなには、ミニサイズの滑り台に見える。 「キャー!やったー!」 「おじ様の手作り、久しぶりね!」 その装置を見たラブと美希は、喜びの悲鳴をあげている。 わけがわからずポカンとしているせつなの背中を、祈里がそっと押した。 「せつなちゃん、こっちこっち」 促されるままに装置に近づく。 縦に割った竹を幾つか組み合わせ、傾斜をつけている。 一番下にはザルの乗ったバケツが置かれていた。 「これは……なあに?」 尋ねるせつなに、祈里はウインクを返した。 「見てて。始まるよ!」 竹の滑り台の一番高いところから、祈里の母・尚子が何か白いものを置いた。 水が白い塊を押し流していく。 いつの間にか箸と器を持ったラブと美希が、争うように奪い合う。 「アタシの勝ちぃ!」 「ズルイよ美希たん!」 「まあまあラブちゃん、まだまだ沢山流すわよ」 尚子が笑う。美希も、ラブも笑う。それを見て、せつなも笑った。 そんなせつなに箸と器を渡しながら、祈里が教えてくれる。 「流し素麺、っていうんだよ。子供の頃、夏になるとよくここでしてたの」 「お素麺を流しているだけなのに、何だかすごく楽しいのね」 微笑むせつなの視線の先には、素麺バトルを繰り広げるラブと美希の姿。 「また美希たん!もおおっ!あたしも食べたいのにー!」 「悔しかったら取ってみなさい」 「むー!次こそ負けないよ!トリャー!」 ラブの箸先が素麺を捕らえようとした瞬間、真っ赤な塗り箸につかまれた素麺が宙を舞った。 「わたしの勝ちね」 口の端だけを引き上げて笑うせつなに、その場の者たちは気圧されたように静まり返る。 一瞬見せた婀娜っぽい微笑は、どことなく銀髪だった頃の面影にも似て。 「ず、ズルイよせつなー!!」 ラブの叫びなどものともせず、せつなは素麺をもぐもぐと頬張ると、ニッコリと微笑んだ。 「おいし!」 そこからは、皆で笑いながら沢山食べた。 ラブと美希は子供の頃と同じ笑顔で、せつなは心から楽しそうに。 祈里は感謝した。皆でこうして楽しい時を過ごせることに……このありふれた幸せに。 ――――ありがとう。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/280.html
第23話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学体育祭(後編)――』 爽やかな秋晴れの空。うろこ雲と呼ばれる、真っ白で影のない小さな雲片が無数に広がる。絶好の運動日和に恵まれた。 四つ葉中学校の校庭に、千人近い生徒が整列する。父兄も加えると、動員数二千人を超す一大イベントだ。 朝のうちは寒さが厳しく、生徒たちは半袖シャツとパンツの上にジャージを着込んでいた。 運営本部の大きなテントの前には、計三十本にも及ぶ、大きなクラス団旗が連なる。 風を受けてはためく姿は、見る者の心を鼓舞し、闘志を燃え上がらせる。 校長先生の挨拶が終わり、三年生の選手代表が宣誓を行う。 一人の少女が生徒の間を潜り抜け、校長に入れ替わって壇上に立つ。 体重を感じさせない軽やかな身のこなし。踵から頭の先まで、芯が入っているかのような立ち姿。それだけで、相当に鍛え込んでいる生徒であるのがわかる。 女子としては平均的な身長。肩に掛かる程度の長さの黒髪。遠目には、他にこれといった特徴のない、地味な印象の女の子。 しかし、間近で見た者は息を呑むだろう。透き通るように白い肌。端正な顔立ち。小柄ながらも、頭身の高い理想的な体形。一般人とは異なる存在感と、清楚な雰囲気を持つ少女だった。 「宣誓! 我々、選手一同、九百二十五名。四つ葉中学校の生徒として、全力で競技に臨み、精一杯戦い抜くことを誓います! 選手代表、東せつな」 少し低めの、強い意志を感じさせる、凛とした声が校庭に響き渡る。 そんな話は聞いていないと、少女のクラスメイトと両親は目をパチクリさせる。 盛大な拍手の中、体育祭は幕を開いた。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学体育祭(後編)――』 駆け足で戻ってきたせつなの誘導で、クラスは待機場所のテントに向う。そこで質問責めにされるものの、軽くかわして全員に最初の競技の準備を促した。 せつな自身も、ジャージの上着を脱いで柔軟運動を始める。「昨年の体育祭を見せてもらっておいて良かったわ」と、ラブに囁く。 ラブは返事もせずに、ポカンとせつなを見つめたまま動かない。 「どうしたの? ラブ。ちゃんと準備運動をしないと、すぐに綱引きが始まるわよ」 「あ、うん、見惚れちゃって。おとうさん、ちゃんと撮っててくれたかなあ?」 「馬鹿なこと言ってないで、早く用意して行くわよ。一戦でも見落としたら、その分だけ不利になるわ」 「は~い、って、見落としたらどうして不利になるの?」 今年の綱引きは、紅白ではなくクラス対抗のトーナメント戦だ。競技が長引くのを避けるために、学年ごとに三ヶ所に別れて同時進行する。 せつなは各クラスの特徴を見抜いて、その対策を立てるつもりだった。 綱の引き方には大きく三種類ある。開始と同時に全力を出す先行型。中腰でひたすら引っ張り続ける攻撃型。ホールドして相手の疲労を待つ守備型だ。 先行型は攻撃型に強く、攻撃型は守備型に強く、守備型は先行型に強い。三すくみと呼ばれる関係だ。 せつなのクラスは、その全てに対応できるように練習を積んでいた。 どこと当たっても勝ち抜けるように、せつなはそれぞれのクラスの動きをじっくりと観戦した。 「せつな、なんだかとっても楽しそう。やっぱり勝負事は好きなんだね」 「フフッ、そうね。確かに嫌いじゃないけど、楽しいと思えるのはみんなが一緒だからよ」 せつなたちのクラスの番が回ってくる。音楽と共に駆け足で入場して、速やかに左右に分かれてポジションを確保する。 ロープはなるべく端から端までを平均的に使い、足は肩幅で水平に開き、左右の手をくっつけて綱を握る。 そして、一糸乱れぬ直線で整列して待機する。 その姿は、他のクラスと比べると、遠目からはっきりわかるほどに違っていた。 ピィッ――! という笛の合図とともに、麻で編まれた太いロープが持ち上がる。『オーエス、オーエス』『ワッセ、ワッセ』の掛け声で、ロープが左右に引かれ合う。 しかし、拮抗していたのは一瞬だった。開始直後に勝負を賭けていた相手チームは、力を温存していたせつなたちに対抗できなくなる。 ロープ中央の赤いマーキングが四メートルを越えて、勝負ありのホイッスルが吹き鳴らされた。 「圧勝だったね! せつな」 「凄いじゃない、これなら優勝できるかも?」 「そうね。でも、もともと団体戦は落とすわけにはいかないのよ」 そのままの勢いで、せつなたちのクラスは、特に苦戦もせずに綱引きで優勝した。 幸先のいい出だしに、クラスメイトの士気も高まる。 次はクラス選抜の短距離走だ。七人の代表選手が百メートルを走り抜ける。せつなたちは十クラス中で、一位に二人、二位に三人、三位と四位に一人づつだった。 期待を遥かに上回る成果に、クラスから一斉に歓声が湧き上がる。喜び合う選手たちの姿にせつなの心も弾む。 続いて、午前中の見せ場である、中距離の二百メートルと長距離の八百メートル走が行われる。 これが苦しい結果となった。中距離では何とか半数が上位に食い込んだものの、長距離ではどうしても体力の差が響いてくる。 短い練習期間では、フォームの矯正はできても、体力の向上は望めない。長距離は最下位となり、クラス順位を大きく下げてしまった。 そして、全員参加の球入れ合戦。 垂直に五メートルの高さに掲げられた籠に、百個のお手玉を投げ入れる種目。 いくつか投げてことごとく外したラブは、拾ったお手玉をせつなに片っ端から渡す作戦に出た。 せつなの投げたお手玉は、緩やかな弧を描いて籠に収まる。何人かがそれを真似て、特に練習しなかったにも関わらず二位の成績で終わった。 その後の、借り物競争とパン食い競争は大活躍だった。ここで、本来の主役級の選手を投入しているのだ。 お父さんと書かれた札を持って、父兄用のテント目指して高速で駆けるせつなの姿は、一時、会場中の話題をさらった。 パンを取るのにもたついた陸上部のクラスメイトが、最下位からトップまでをごぼう抜きにして、一着でテープを切る姿は圧巻だった。 「現時点で、総合三位ね。ここで食らい付いておかないと、後半で追いつかなくなるわ」 「午後の種目は、二人三脚リレーからだね。絶対に勝とうね!」 「もちろんよ!」 昼食の時間になった。みんな後半の競技に必勝を誓って、それぞれの家族の元に向った。 ラブとせつなは、あゆみと圭太郎が待つテントへと向う。そこで合流して、お弁当は少し離れた場所でシートを引いて取ることにした。 まるで学校の中でピクニックしてるみたいだって、せつなが嬉しそうに微笑んだ。 「間に合って良かったよ。おとうさんやおかあさんと一緒にお昼ご飯を食べられる体育祭は、中学で終わりなんだ」 「そうね、高校からはお昼も別々。なんだか味気なくなるわね」 「まあ色々問題もあるし、恥ずかしくなる年頃だからな」 「だったらその分、今日を精一杯楽しむわ!」 「その意気だ。しかし、せっちゃんは足が速いんだな。僕も自信はあったんだが……」 「おとうさん、せつなに引きずられてるみたいだったよ?」 「お父さんだけズルイわよね。わたしも一緒に走ってみたかったかも?」 「ええっ~~!!」 借り物競争の札に書かれていたのは、お父さんかお母さん。どちらも来ていない場合は教師で許される。足には自信があると、圭太郎が買って出たのだった。 ルール上、手を繋いで走らなければならない。真っ赤になったせつなが可愛いと、クラスメイトから冷やかされたりもした。 楽しい休憩時間はあっという間に過ぎて、午後の競技を迎える。 二人三脚のリレーは、バトンではなくタスキを掛けることでタッチを行う。アンカーのラブ・せつな組がそれを受け取った時には、既に他のチームの全員が先を走っていた。 せつなのクラスの出場選手は、主に運動部に所属している者で固められている。足は速いのだが、部活動があって十分に練習できなかったことが災いした。 差はたかだか十メートルちょっと。しかし、それが絶望的な開きでもあった。 小回りの聞かない二人三脚は、前方の組を追い抜かして走るのが極めて難しい。スタートで抜き出た者たちが、そのまま勝者となる競技なのだ。 「誰だよ! 二人三脚でリレーしようなんて言いだしたのは?」などと応援席で野次が飛ぶが、それも後の祭りでしかない。 「せつな、あたしに考えがあるの。一か八か、本気で走って外側から追い越そう!」 「面白いわね、乗ったわ。ラブは全力で走って! 私が合わせてみる」 「行くよ、せつな! 3、2、1、GO!!」 肩を組んでいた二人の手が、腰に下りて体操着を握る。上体を自由にして、肩を回転運動から上下運動に切り替える。前傾姿勢によるピッチ走法。それは、ソロの短距離走のモーションだった。 最後尾のペアの走りが突然変わる。見たことも無いフォームで追い上げるペアの姿に、会場中から驚きの声が上がる。 せつなは呼吸をラブに合わせて、全神経をラブの腰にかけた手に集中させる。 そして――更なる加速。二人は息を止め、歯を食いしばって走る。有酸素運動から、無酸素運動への変化。 「イチ、ニイ。イチ、ニイ」「右、左。右、左」テンポよく声を出して走る前方の集団に、ラブとせつなは外側から大きく弧を描いて迫る。 「凄い……。ラブとせつな、声を出さずに走ってる?」 「どうやって合わせてるんだ? しかもあれ、二人三脚のスピードじゃないぞ!」 この世界の体術に、相手の体に触れることによって次の行動を読み取る技術があるという。 達人と呼ばれる者の中には、触れずとも察知してしまう者もいるのだとか。せつなの使った技術はそれに近かった。 もちろん、せつなはそこまでの域に達しているわけではない。だけど、クローバーの四人なら、相手を見なくても複雑なダンスの動作すら一致させられる。 ダンスと体術の融合。そして、技術だけでなく、心まで一つにして共に歩める信頼関係。それが限界を超えた同調を可能にする。 『ゴ――ル!!』 ラブとせつなのペアが白いテープを切る。クラスの垣根を越えて、惜しみない拍手が二人を包んだ。 次のプログラムは障害物競走。お遊びの要素の強い種目だが、本気で挑めば、ある意味最も過酷な競技かもしれない。 麻の袋に入って、ピョンピョンと飛ぶ。マットの上ででんぐり返し。ハードルを一本目は飛び、二本目はくぐり、交互に三回繰り返す。最後の仕上げは網くぐり。 これらの障害を、十数メートルのダッシュを繰り返しながら行うのだ。 そして、この競争こそせつなのクラスの独断場だった。体力自慢の精鋭がエントリーする。一つ一つの障害に運動能力は関係なくても、後半の持久力が違う。 圧倒的な差で一着をもぎ取った。 そして、騎馬戦。男子と女子で一クラスにそれぞれ一組づつ出場する。花形競技の一つ。こちらも、出場したことのないメンバーで編成されていた。 十分に練習は積んでいたものの、上位クラスのチームとしてマークされていたのか、男子の騎馬は開始早々に敗れてしまう。 そして、迎える女子騎馬戦で―― 「由美っ!!」 「いけない!!」 騎上にいたクラスメイトの由美が落馬してしまう。すぐに救護班が呼ばれ、保健室に連れて行かれる。 もちろん、せつなとラブも付き添った。 「由美、大丈夫? 痛む?」 「ごめんなさい、私の組み方が悪かったんだわ……」 「平気平気、たまたまドジ踏んじゃっただけだって。ゴメンね」 外の喧騒に比べて、不気味なくらいに静かな校舎の中。保健室だけが多くの怪我人で賑わっていた。 由美本人の申告通り、軽い捻挫で済んだらしい。 とは言え―― 「ゴメン、せつな。わたし、リレーに出なくちゃいけないのに……」 「気にしないで、ゆっくり休んでいて。今から代走を探すわ。無理をさせてごめんなさい」 「せつなは悪くないよ! こんなに頑張ってるじゃない!」 「ラブ。次の競技まで、まだ少し時間があるはずよ。みんなを集めるのを手伝ってほしいの」 「うん……。わかった」 ラブは一足先に戻って行った。由美は簡単な手当ての後、校庭に戻ることを望んだ。 もう競技に参加は出来なくても、みんなの戦いを見届けたいからと。 せつなは由美に肩を貸して歩いた。 頼りないほど軽い由美の体重が、今のせつなにはとても重く感じられた。 クラスのテントに着いた時には、みんな集まってくれていた。由美の怪我が大したことはないと聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。 「みんなに謝りたいの。私が無理を通したばかりに、由美が怪我をしたわ。勝てたはずの競技を落として、楽しい体育祭を滅茶苦茶にしてしまった」 「せつなは悪くないよ!」 「そうよ! わたしが怪我をしたのはドジだからだし」 「二人は黙ってて! みんな――ごめんなさい!」 せつなは深く頭を下げる。総合順位は再び三位、十クラスの中では悪い成績じゃない。でも、当初の出場選手で挑んでいたなら、十分に優勝が狙えたはずだった。 それだけの練習をしてきたのに、みんな付き合ってくれたのに、それを活かすことができなかった。 花形競技の大半で破れ、そこから外してしまった人たちの活躍で上位を維持している。せつなの思惑は全く外れてしまっていた。 「今さらだけど、みんなの意見を聞かせて。最後のリレーで一着を取れば、逆転優勝も可能よ。みんながそれを望むなら……」 せつなは、今からでも登録を変更したいと告げる。この日のために練習に付き合ってくれたメンバーには、後からどんな形ででもお詫びをするからと。 「誰も――責めてないだろ?」 「えっ?」 「東がメンバー表を組み替えてなかったら、俺はパン食い競争に出る機会なんて一生なかったと思う」 「僕も、障害物競走だって面白かったよ。一着取れたしね」 「ある意味、昨年よりも目立てたよな」 「初めてちゃんとした競技に出れたわ。勝てるかも? って期待しながら走れた。練習も、本番も最高に楽しかったもの」 「まだ勝負は付いてないじゃない! ハンデを背負って勝つのが楽しいんでしょ。みんなで一丸となって」 「予定では、現時点で首位をキープしておくはずだったわ。次のリレーは一番不利な競技なのよ」 みんなの気持ちに胸が一杯になりながらも、せつなの表情は晴れない。 「メンバーの変更は反対だな。今日まで頑張ってきたんじゃないか」 「繰上げなら、いいんじゃないかな?」 「そうかっ! わたしの代走が必要よね!」 「えっ? それって……」 「責任を感じているなら、いっそ、本当に責任を取ってみてはどうかな?」 「東さんがアンカーを走りなよ。アンカーは二百メートルだろ? 東さんなら挽回できるかもしれない」 「でも……私が……私だけ……」 「わたしも見てみたい。せつなの本気の走りを!」 「文化祭でわかっちゃったの。東さんて、まだ隠してる力があるのよね?」 「やるっきゃないね! せつな。あたしたちでバトンを繋ぐから、みんなの想いをゴールに届けて!」 「――わかったわ。全力で、精一杯頑張ってみる!」 『それでは、最終種目。クラス選抜リレーを開始します。出場選手は所定の位置に集まってください』 最終競技を告げるアナウンスが鳴り響く。熱気に湧き上がっていた会場が、一瞬、シンと静まり返る。クラスメイトの表情も、緊張で固く引き締まる。 それは、出場しない生徒たちも同じだった。これまでの練習の成果が、その結果が、この競技で決するのだ。 「行こう、せつな。あたしたちだけじゃない、クラスみんなで繋いだバトンで、幸せゲットだよ!」 「勝ってね、せつな。わたしも、気持ちは一緒に走ってるから!」 「精一杯――がんばるわ」 せつなの返事が、声が、普段より低く、力強く響く。 表情から穏やかさが消え、つり上がった瞳は、前方を鋭く見据える。 身体はしなやかにリラックスしつつも、秘めたる爆発力を周囲の者に感じさせる。 激しい闘志を全身に纏う。その姿は、狩りで獲物を前にした、肉食獣のように美しかった。 一瞬、髪の色が銀色に輝いたようで、ラブは目をこすってもう一度せつなを見る。いつも通りの黒髪だった。 でも――わかる。今のせつなは、普段のせつなとは違う。 日常生活に適応するために、無意識に力を抑えた中での精一杯じゃない。 生きていくために身に付けた、能力の限界に挑んでいる。東せつなの全てを込めた、全身全霊の精一杯なのだと。 第一走者がスタートラインに一列に並ぶ。 十名のクラス代表が一列に並ぶ。せつなのクラスはインコースから七番目。クラス順位によるハンデだった。 両手の指を一杯に広げ、上体を低く沈め、効き足を前に、逆足を後ろに伸ばす形での構え。 クラウチングスタート。本来は陸上部の選手しか使わない、本格的なスタート方法。彼は走りは練習せずに、ただその一点だけを磨いてきたのだ。 『パァ――ンッ!』 銃声とともに、第一走者が駆ける。ここに、(あくまでリレーの出場者の中では、だが)一番速い選手を持ってきていた。 楕円形のコースを走るリレーでは、スタートダッシュと、第一走者の順位が後半に大きく影響する。 直線よりカーブが多いコースでは、前方の選手が障害となり、順位を入れ替えるのが難しいためだ。 トップでスタートを切ったものの、本来は走ることを得意としない生徒でしかない。その後二人に抜かれて、三位でバトンを渡した。 「がんばって! がんばって!」と、せつなは心の中で声援を贈る。声は出なかった。言葉にはならなかった。既に、身体が臨戦態勢に入っているのだ。 アンカーの手前、ラブが準備体勢に入る。バトンゾーンのギリギリ前から、タイミングを見計らって地面を蹴る。 十メートルのゾーンを駆け抜けた時、ラブの走行速度はランナーの速度とぴったり同じとなる。 相対速度がゼロとなった制止空間で、バトンの受け渡しが確実に行われる。その時点での順位は八位。健闘も及ばず、第一走者から大きく落ち込んでいた。 大方の予想を裏切り、ラブは速かった。もともと運動の得意なタイプではない。しかし、プロダンサーという新たな目標を持ったことで、自主トレーニングを再開していた。 一度ダンスで鍛えた肉体は、速やかに筋力を取り戻す。せつなと接する機会も多いため、一番、体育祭の練習に励んでいたのもラブだった。 出番を間近に控えて、せつなの集中力が爆発的に高まる。 自己暗示により、心理的ブレーキを解除する。本来の力を解き放つ。 (思い出せ! この身体は、戦うために作り上げてきたもの。疾走は、その基本のはず) 己の肉体を管理し、コントロールする。心臓の鼓動。血液の流れ。細胞の一つ一つに至るまで。 足の動きを司る、大腿四頭筋・下腿三頭筋・腸腰筋・腹直筋・脊柱起立筋。そして、上体の腕の振りに必要となる、小胸筋・小円筋・広背筋。 それぞれに意識を飛ばし、働きかけ、活性化させる。使わない筋肉は脱力させ、全てのエネルギーを走ることのみに集束させる。 トーン、トーン、と、せつなは小さく二回ジャンプする。それで全ての筋肉は繋がり、覚醒し、一つの目的の達成を誓う。 ラブが地面を蹴るように力強く走る。コーナーで前の走者との距離を縮め、直線で一気に二人抜き去った。 「せつなぁ――ッ!!」 ラブの声が聞こえたような気がした。実際には無酸素運動の真っ最中であり、声を出す余裕なんてあるはずがない。 気迫のこもった視線が、想いが、心の声をせつなに届ける。 ラブがバトンゾーンに差し掛かる。他の生徒のようなペース調整もなく、トップスピードのまま全力で走り抜ける。 受け渡しなんて考えていない。距離が縮まらないせつなの背中を、ただひたすらに追いかけた。 せつなもラブを一切見ない。背を向けて跳ぶように走り出す。まるで吸い込まれるように、ゾーンの中ほどでせつなの手にバトンが収まった。 バトンゾーンの残りは加速に使用された。ラブが蹴るように走るなら、せつなは跳ぶように走る。 足を地に付けて弾ませ、その反動で後ろ足を真っ直ぐに伸ばし、最後のランでリズムをつけて加速していく。 手を大きく動かし、歩幅はもっと大きく動かし、地面を蹴るのではなく掴んで跳ぶ。それは、せつなの強靭なバネと脚力の成せる技だった。 高速走行で視界の狭くなったせつなの目に、前方の走者の姿が映る。次の瞬間には、遥か後方に置き去りにした。 各組最高の俊足を集めたクラスリレーのアンカーの中にあって、それすらも相手にならないとばかりに、次々とせつなは抜き去っていく。 四人抜いて、トップのランナーと並ぶ。男子生徒であり、その綺麗なフォームはあきらかに素人ではなかった。 最後の直線でせつなは併走する。流石に、中々抜かせてもらえない。 その時、クラスのみんなからの声援が耳に飛び込んできた。 「せつなー! 頑張れ――!!」 「せつなー! 負けないで――!!」 「東さん、ファイトー!!」 「いっけぇぇ――!!」 せつな自身、もう限界と思われた身体に、更なる力が宿る。声援に背中を押されるようにして、更に加速し―― ――抜き去った。 「嘘だろ……。あいつ、男子短距離の全国大会選手なんだぞ……」 「それを遥か後方から抜き去るって、百メートル何秒で走ってるのよ……」 二位のクラスから、信じられないといった声が上がる。そのつぶやきも、すぐに周囲の大声援にかき消される。 せつなの身体が真っ白なテープを切って、一着でゴールインした。 勢いを殺しきれずに、限界を超えていたせつなは転倒しそうになる。 「お疲れ様、せつな。おめでとう」 バランスを崩して倒れそうになったせつなを、ラブが身体を張って受け止める。 何か返事をしようと思ったが、呼吸が乱れて上手く声が出せなかった。 クラスメイトの祝福と歓声に包まれて、せつなはしばらくの間、幸せな気持ちで目を閉じた。 全てのプログラムを終えて、閉会式が行われる。体育祭の優勝トロフィーの授与。せつなはクラス代表として再び壇上に立つ。 銀色に輝く杯の中央には、四つ葉のクローバーの意匠が刻印されている。左右の取っ手はハートの形になっていた。 二千人の拍手に包まれて、せつなはトロフィーを受け取り、頭を下げる。 そして、体育祭の成功の証を手に、クラスメイトの待つ場所に、 ――大切な仲間たちの元に戻った。 「優勝できたのは、みんなのおかげよ。私――何にもわかってなかった」 せつなは、今の心境を素直に話す。自分の気持ちを素直に伝える。それも、最近のせつなの大きな変化の一つだった。 自分が体育祭の委員に選ばれたのだから、自分の力で成功させなければならないと思った。 自分が頑張って、みんなを幸せにしたいと思った。 「でも、そうじゃなかった」 みんなの幸せは、みんなで掴めばいいんだ。 時には、選択を間違うこともある。正しくても、力が及ばないこともある。 失敗しても、挫けても、落ち込んでもいいんだ。支え合うことができれば、人は何度でも立ち上がれるのだから。 「みんな、ありがとう。私――今日の、この日のことを一生忘れない」 瞳を潤ませてお礼を言うせつなに、再びクラスメイトからあたたかい拍手が送られる。 せつなの胴上げをしよう! ってラブが提案したけど、男子たちの目が嬉しそうに輝いたので見送られた。 惜しそうな、情けない男子たちの表情に、思わずせつなが吹き出した。 つられて、みんな一斉に笑い出す。 また一つ、せつなを取り巻く幸せの輪が広がった。クラスの結束も、より確かなものとなっただろう。 勝利と達成感の余韻の中、惜しみつつ解散する。みんな、それぞれ家族の元に戻っていく。 せつなとラブもまた、あゆみと圭太郎と共に家路に着いた。 大切な教えと、喜びを胸に抱いて――
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/88.html
耳に心地好く響くせつなの声。 それは、まるで心を内側から羽毛で撫でられているよう。 美希を優しいと言うせつな。 たぶん、面と向かって美希をそんな風に評したのは せつなが初めてではないかと思った。 優しく無い、とは今までも思われてはいないとは思う。 しかし、それは美希を表す単語としては、必ずしも上位にある言葉ではない。 上に来るのは、しっかりしてる、大人びてる、気が強い。 親しい相手には、案外抜けてる、なんて言われる事もある。 しかし、情には厚い方だと自分で思っていたりもするが、 『優しい』なんて丸く柔らかいイメージは持たれていない。 他ならぬ、美希自身がそう振る舞って来たのだから。 そんな言葉が似合うのは、いつもふんわりとした微笑みを浮かべている祈里。 いつもお節介なくらいに他人の為に走り回っているラブだ。 美希の役回りは叱ったり励ましたり。 どちらかと言えば喝を入れてしょげた相手を奮い起たせる方だ。 上手くは行かない時もあったけれど。 「アタシは優しくなんかない。せつなはあんまり優しくされた事ないから、 アタシなんかでも優しく見えるだけよ」 「…それも随分な言い方よね。私の感じ方なんて当てにならない?」 「でもっ、それは、せつなの見方が変わっただけでしょ? アタシのやった事は何も変わってない!」 「それのどこがいけないの?」 「だって!そんなのっ……」 「美希だってそうでしょ?」 「……?!」 「私だって、変わってないわ。美希の見方が変わっただけ」 「…………」 「今の私を見てるから、昔の私も引っくるめて、親友だって言ってくれる。違う?」 「…じゃあ、せつなは?なんでアタシを親友だって言うの? アタシ、せつなにそんなに好かれるような事、した?」 言ってて気が付いた。 本当にそうだ。自分は、親友だと言いながらせつなの為に何かした事があっただろうか。 口だけだ。一人にはしないなんて。 いつだって、せつなの為に必死になっていたのはラブだけだ。 自分はラブに引きずられていただけ。 ラブがこんなにも想ってるんだから、そう、美希はラブの為に走り回っていただけ。 せつなの為では無かった。 それを思うと、たとえ傷付け汚しても、剥き出しの想いをぶつけた 祈里の方が真摯にせつなに向き合っていたようにすら感じる。 結局、自分の事しか考えて無かった。 居心地の良かった棲みかを追われる事に脅えていただけだった。 これ以上せつなに傷付いて欲しくない、そう言いながら、 四人でいるのを望んでいるのは自分自身だとせつなの口から聞かされ、 その事に膝が砕け、崩れ落ちたくなるくらいに安堵していた。 「今、こうして、一緒にいてくれてるわ」 止めどなく溢れる美希の涙を指先で拭いながら、せつなは一語一語を はっきりと句切るように美希に告げる。 「自分が辛い時に、一緒にいる相手に私を選んでくれた。 そんな風に感じるのって自惚れてるかしら…?」 「………せつな…」 「いつだって、美希は必死に考えてくれてた。どうすれば、みんなが 笑って過ごせるのか。勝手にしろってそっぽを向く事だって出来たのに」 半ば呆然とせつなを見つめる。 せつなの中の美希はどんな姿なのか、未だに美希には掴めない。 だけど、優しい、と言う評価に少しだけ意地悪を言ってみたくなった。 今まで美希に付いてまわった評価では、優しい、と言うのはあまり記憶に無いから。 「ねえ、せつな。せつなは知らないかもだけど、こっちの世界では 『優しい』って、結構ビミョーな評価なのよ?」 「どう言う意味?」 「あのね、毒にも薬にもならないって言うか、いい人だけど 他に魅力が無いって言うか…」 「…………」 「なんて言うの?他に誉め言葉が思い浮かばない時に使う、 ある意味便利で無難な言葉だったり、酷い時だと優柔不断を 紙一重でマイルドにした感じ?…」 「………こちらの言葉の使い方って複雑なのね……」 せつなは呆れたようにため息をつき、改めて真っ直ぐに美希に向き合う。 至近距離で見つめ合っても、およそ欠点など見つけられない完璧な笑顔。 美希はぼうっとしたまま、今の自分はかなり間抜けな顔を晒しているのに、 そんなに可愛く微笑むなんて不公平だ、などと緊張感の無い事を 思わず考えてしまった。 「いい?美希は優しいわ。少なくとも、私はこれから先、美希以外の人に 『優しい』って言う表現は使いたくない」 「………」 「そのくらい、美希は優しい人だって思ってる」 同じくらい、寂しがり屋だとも思ったけど。 そう言いながら、美希の濡れた頬に唇を寄せた。 もう、駄目だ………。 美希はせつなにしがみ付き、声を上げて泣いた。 物心付いてから、声が枯れそうな程、こんなにも泣いた記憶は無いくらい 大きな声で泣いた。 せつなの言う、優しい人。それがどんな意味合いを持つのか。 美希はせつなに意識して優しくした覚えは無かった。 ただ日々せつなを見つめ、共に過ごす内に芽生えた愛しさを 隠す事はしなかっただけだ。 ラブはせつなに出逢った瞬間から、抗い難い運命の様な物を感じたのだろう。 祈里は自分でも気が付かない内にせつなに魅入られ、堕ちて行った。 自分はどうだったのだろう。 最初は、ラブの後をちょこちょこと控え目について行くだけだったせつな。 少しずれた世間知らずな言動や、それとは裏腹な時には突拍子も無い程の行動力。 空気は読まない、お愛想代わりの世間話すら出来ない。 美希は手のかかる妹分がまた一人増えたようなつもりでいた。 それがいつの間にか、こちらが頼る場面すら増えてきた。 妹扱いしようにも、せつなの方が美希を『お姉さん』とは微塵も感じていない。 それが最初は居心地が悪くて、でも不思議と嫌ではなくて。 せつな相手には何も飾る必要がない。 と、言うより、飾った所でせつなは美希が気取っていようがすましていようが、 逆に子供のように拗ねたりしても気にもしない。 いつしか、せつなとは一番目線が近いような気すらして、 それがなんだか嬉しかった。 美希の脳裏にふとした思いつきが浮かぶ。 試してみてもいいだろうか。しかし、単なる思いつきで頼むのも失礼な気もする。 それに、物は試し…が変な方向に転がったら。 凄まじい勢いで色んな思いが駆け巡る。 もう、せつなには何でも言えるし、せつなも何を美希が言っても 驚かないだろう。 ここまでさらけ出してしまったら、もう取り繕う箇所は殆んど無い。 しゃくり上げる胸を落ち着かせ、何とか息を整える。 大きく深呼吸して、下手をしたら多大な誤解を招き兼ねない一言を口にした。 「ねえ、せつな……キスしても、いい…?」 ようやく涙が落ち着いて、やっと口に出した言葉がこれだ。 さすがにまともに顔を見る勇気は持てなかった。 せつなも咄嗟に反応を返せないのか、無言のまま。 「いいかな…?」 おずおずと顔を上げ、上目使いに何とか視線を合わせる。 せつなは、しばらく美希の表情を窺った後、驚くでも茶化すでもなく、コクリと頷いた。 目を閉じ、軽く顎を上げる。 美希の口付けを待っているのだ、と理解し、自分で言っておきながら 美希は微かにたじろぐ。 ゴクリと喉を鳴らし、何とか手の震えを抑え、せつなの肩に両手を添える。 濡れた唇が軽く触れる。 ビリッと電気が走り、髪の毛も含めて全身の毛が逆立った気がした。 信じられないくらいの柔らかさ。心臓が跳ね上がる。 そして少し躊躇った後、しっかりと唇を押し付ける。 蕩けそうな感触。 こんなに柔らかいものに触れたのは生まれて初めてだと思った。 どこまでが自分の唇で、どこまでがせつなの唇なのか分からなくなる。 頭の芯が熱い。 逃げ出したいような、いつまでもこうしていたいような。 そして、物凄くドキドキしているのに、やっぱり『違う』と感じる。 この鼓動は胸の高鳴りとは別物だと、頭のどこかが言っている。 早鐘を打つ胸は、緊張と、こんな事をしてせつなにどう思われるだろう、 と言う不安。 少なくとも、もっと先に進みたい、もっと触れたくてもどかしい。 そんな欲望は微塵も涌いて来ない。 甘い匂いと柔らかな感触には、うっとりといつまでも 酔い痴れてしまいそうな心地好さはある。 でも、それだけだ。 「……どう、だった…?」 触れていたのは、ほんの数秒だろう。 それでも、唇を離すまでは時間が止まっているようだった。 温もりと柔らかさがすっと遠退くのが名残惜しいような、 ホッとしたような。 離れた瞬間から夢か幻だと言われても信じそうなくらい、 一瞬にして現実感がどこかへ行ってしまった。 「…しょっぱいわ……」 「あのねぇ…」 ペロリと唇を舐めたせつなが呟くように漏らす。 「美希、涙で顔中ベタベタなんだもの…」 「色気のカケラも無い感想ね……」 「美希に色気なんか感じてどうするのよ」 ぷっ…、と二人同時に吹き出した。 そのまま額をくっ付け、笑い合う。 「よかった……」 「何が…?」 「せつなにドキドキしちゃったら、どうしようかと思ったわ…」 「何よ、それ。実験?」 「そーよ、実験。やっぱりアタシには無理だわ」 「そんな事の為にわざわざ唇奪ったの?」 「何よ、奪ったって。合意の上じゃない、人聞きの悪い」 クスクスと笑いながら囁き合う。 馬鹿馬鹿しい、けれど、真剣な実験。 二人はこれからも親友。何があっても。 大好きで大切だけど、閉じ込めて一人占めしたいなんて思わない。一人占めしている誰かに嫉妬もしない。 だって、想い合う場所が違うから。 運命の人でも、欠けた魂の片割れでもない。 だけど、かけがえの無い、一番の友達。 「美希が好きよ。大好き。何度でも言うわ」 「…せつな」 「ラブみたいには想えない。それに、ラブと美希を比べたら… 比べたくなんかないし、比べちゃいけないんだろうけど、 やっぱり比べたら、私はラブが大切って答える」 「………うん」 「それでも、やっぱり美希の事が大好き。大好きで、美希にも、私を好きでいて欲しい…」 「うん……」 それでいい。ううん、それがいい。 美希も、せつなから欲しいのは、ラブに向けているような愛情ではない。 それがはっきり分かったから。 出逢った瞬間、恋に落ちる。何もかも振り捨ててでも、たった一人の 人を求めずにはいられない。 そんな相手に巡り会える人なんて滅多にいないのだから。 多くの恋人達は、いくつもの出合いと別れを繰返し、結ばれた後も、 本当に自分の相手はこの人なんだろうか…? そんな不安を抱えているのも珍しくはないのだろう。 永遠の愛を誓った後でさえ、気持ちが変わる。 美希の両親がそうだったように。 せつなの中の美希。せつなの親友。誰よりも優しい人。 それが本当に自分の姿なのか。 たぶん、せつなにとって美希がどう思うかはあまり関係ないのだ。 ただ、せつなは今目の前にいる美希を抱き締めてくれている。 初めて出来た、無二の親友として。 人によって、その心に住み着く人間の姿は違う。 しかし、その人そのものは何も変わらない。 月が日々姿を変え、満ち欠けしても、月である事が変わらないように。 月は太陽の光を受けて輝くだけの、冷たい石。 近くで見れば、命の影すら無いクレーターだらけの暗い塊。 しかし、人が月を思い浮かべる時、それは夜空に輝く豊かな光を湛えた姿だろう。 月が自分はただの石くれだと言ったところで、地表から眺める者の瞳には 眩い程に美しく、魅惑的に映っている。 それは、月が自分では輝けない事実を知っていても変わらない。 そんな事は、見上げる月の美しさを損ねるものではないと分かっている。 「美希、一つだけ聞かせて…」 「なあに?」 「……私に、会えて良かったと思う…?」 「…せつな」 「私、ほんの少しでも、美希の幸せの一部になれてる?」 「せつなは……?」 「………?」 「せつなはどうなの?アタシに会えて良かった?」 「当たり前じゃない!」 「だったら、そんな事聞くまでもないわよ!」 途端に、せつなはくしゃっと顔を歪めた。 その顔を見て美希は密かに安堵する。 ああ、やっぱり。せつなだって不安だったんだ。 美希の気持ちを受け止めようと、精一杯頑張ってくれてたんだ。 今度は美希がせつなの頭を胸に抱き込む。 あやすように髪を撫で、体を揺する。 「あなたに出会えてよかったわ」 本当に、本当に。 色んな事があって、これからもまだまだ色んな事が起こるだろう。 だけど、もう自分を嫌いにはならずに済みそうな気がしていた。 今までも、たった今も、出来る限りの事をやってきたと思うから。 せつなに、美希は優しい人だと言ってもらえた。 それで、自分のしてきた事は無駄では無かったと感じられたから。 「アタシ、このままでいいわよね。今のまんまのアタシで」 「うん…。このままの、美希でいて欲しいわ…」 「そうね。これから、変わる事もあるかも知れないけど、 中身はいつだってアタシのままよね」 「ええ……」 たぶん、次に祈里とラブに合うとき、二人は気まずい思いをしてるだろう。 だから、アタシから笑おう。 そうすれば、きっと二人もぎこちなくても笑顔を返してくれる。 アタシは変わらない。 祈里とラブの中のアタシだって、きっと変わってない。 ほんの幼い頃、三人並んで手を繋いでいたあの頃と変わらない自分達が まだ胸の中にいるはずだから。 そこにせつなが加わったって、幼馴染みの絆は変わらない。 そう、信じよう。 そして、せつなの温もりを抱き締めながら、改めて思う。 この子はかけがえの無い親友なんだと。 幼い頃を知らなくても、育った世界が違っても。 ラブや祈里にも話せない事も打ち明けられる、特別な存在だと。 結局、回り道しただけで行き着く場所は同じだった。 その回り道は辛くて、先が見えなくて、それでも、今まで知らなかった 様々な道を教えてくれた気がする。 大切な人は、やはり大切だった。失う事も、別れ別れになる事も考えられない。 そんな当たり前の、それでいて忘れてしまいがちな事実を確認できたから。 そして、せつなもきっとそうなのだと思いたかった。 ラブと祈里とせつな、この三人にしか分からない想い。それぞれの胸の内。 それを美希は窺い知る事は出来ない。 せつなが幼馴染み三人の歴史には過去に遡って入れないと知っているように。 だけどそれは、異なる二つの世界があり、お互いに重ならない訳ではない。 より大きな世界となって、美希もせつなもそこにいる。 その世界はこれからもどんどん変化し、広くなったり狭くなったり、 境界線がはっきりしたり、曖昧になったり。 そして行き来出来る場所がどれほど増えても、決して踏み込めない 場所があるだけだ。 満月の裏側が暗闇であるように。 そして、その暗闇は隠すものでも、怯えるものでも無く、当たり前に存在するものなのだ。 静かな闇は穏やかな安らぎを与えてくれるから。 黒ブキ38へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1023.html
『小さくて、大きな願い』/こゆき ――七夕って聞くと、どうしてだろう。胸の奥の方が少しだけキュッと締め付けられるような、ほんの少しだけ泣きたくなるような、何だか不思議な気持ちがするんだ。 やっぱり、織姫と彦星の悲しい物語がある日だから、なのかな……。 ――七夕にまつわる、織姫と彦星の伝説。初めて本で読んだとき、この話を知ってる、って思ったの。 不思議ね、この世界に伝わるお話を、私が知ってるわけない。それなのに、少し悲しくて、どこか懐かしい……。どして? 『小さくて、大きな願い』 玄関の扉が、ガチャっと乱暴に開いた。ラブは帰宅の挨拶もそこそこに、自分の部屋に上がっていく。 その少し後に、今度は開きっぱなしの扉がそっと締められる。「ただいま」と小さな声で挨拶して、ラブとは正反対に静々と部屋に戻ったのは、一緒に出かけたはずのせつなだった。 その不穏な空気に、出迎えようとしていたあゆみは思い止まり、密かに首をかしげる。もちろんこれが初めてというわけではないけれど、ラブとせつなが喧嘩するなんて本当に珍しいことだったから。 しばらく考えて、あゆみはお茶を入れてせつなの部屋のドアをノックした。自然に仲直りするまで待ってもいいのだが、今夜は七夕だ。気まずいまま一日を終えるのは良くないだろう。 「ラブに聞いてもよかったんだけど、せっちゃんの方が素直に話してくれる気がして。何があったのか、話してもらってもいいかしら?」 「ごめんなさい、お母さん。喧嘩したんじゃなくて、お互いに相手の言ってることが受け入れられなくて、イライラしてるだけなの」 それを喧嘩というのだけど、とあゆみは苦笑した。せつなは客観的に、こと細かに、その時の状況を語る。改めて、せつなに聞いたのは正解だったと思った。 『ねえ、せつな。七夕にはね、悲しい物語があるの。織姫と彦星は、互いに愛し合っているのに、一年に一度だけ、七夕の日にしか会うことができないんだって』 『知ってるわ。それは二人が罪を犯したからでしょう? 天帝様の元に布が届かなくなり、牛もやせ細って倒れてしまった。自分の望みのために、他人を不幸にするのは許されないことよ』 『だけど! 罪を憎んで、人を憎まず……だよ。なにも二人を引き離さなくたっていいじゃない』 『天帝様に、もし人の心が無いのなら、一年に一度会うことすら許さなかったはずよ。それに間違った物語なら、こうして語り継がれることもなかったはず。命令にはちゃんと意味があるのよ。従わなければならないわ』 『ううん、間違ってるよ! 誰かが不幸のままでいることが、正しいはずがないじゃない!』 『ラブ、抑止力って言葉は知ってる? 無責任に罪を許してしまったら、同じように仕事を怠ける人が出てくるかもしれない。小さな不幸で、より大きな不幸を防ぐ意味があるのかもしれない』 『何が……小さいの? 愛し合う二人が、引き離されて暮らす悲しみが小さいの?』 『少し落ち着いて、ラブ。これは架空のお話でしょう? 罪を犯した者は、相応の罰を受ける。他人を不幸にしたら、自分だって不幸になるの。それを戒めるための教訓でしょ?』 『違うよ……』 『どう……違うの?』 『他人が不幸になったら、自分だって不幸になるじゃない! 織姫は天帝の娘なんだよ? 自分の子供が毎日泣いているのに、天帝は布を纏って喜べるの? 牛の乳を飲んで美味しいって笑えるの?』 『だから落ち着いて、ラブ。今日はどうかしてるわよ。これは作り話なんでしょ?』 『たとえ作り話でも、あたしの悲しいって気持ちは、本物だもの……』 そこで、ラブがせつなから目を逸らした。そして叫ぶように「もういいよ!」と言ったのだという。 それから二人とも気まずくなって、バラバラに帰って来たのだった。 「みんなで幸せになりたいっていう、ラブの気持ちはわかるわ。だけど、家族とか友達とか仲間ならともかく……街とか国家とか、そうした大きな単位では、権力とか法とか命令とか、そうしたものだって必要のはずよ」 「それは、ラブもわかってるんじゃないかしら?」 「えっ?」 「ラブだって、せっちゃんの言ってることの意味はわかるはずよ。そしてせっちゃんだって、織姫と彦星がこのままでいいと思ってるわけじゃないんでしょ?」 「それは……」 「きっと二人は同じことを考えていて、同じように感じていて、ただ立っている場所が違うだけじゃないかしら?」 「立っている場所?」 「そう。せっちゃんは、天帝様やお話の世界全体からこの物語を見てる。そしてラブは、織姫と彦星の立場から見てる」 「よく、わからないわ……」 「わからないから、考えるんじゃないかしら? どうしたらいいのかって。このお話が語り継がれているのは、その結末が正しいからじゃなくて、どうすればいいかみんなで考えるためじゃないかしら」 「みんなで……考える?」 「そうよ。人はどう生きたらいいのか。どんな世の中にしたら幸せになれるのか。時代を超えてみんなで考えたら、そうして、いい考えがたくさん集まったら、一番いい方法だって見つかるかもしれないでしょう?」 あゆみはそこで、何か思い出したような顔をした。ちょっと待っててね、と言って部屋を出て行くと、またすぐ戻って来て、一冊のアルバムをせつなに手渡した。 「これは?」 「ラブの小さい頃の……そうね、たしか三歳から五歳くらいまでの写真よ。七夕の時の写真もあるから、見てごらんなさい」 せつながアルバムを開くと、そこには小さいけれど、でも確かにラブの面影のある女の子の写真が収められていた。 そのほとんどは笑顔。本当にいつも笑ってばかりいたんだろう。だがめくっていくうちに、珍しく泣き顔の写真があった。 源吉お祖父さんに手を引かれて、顔をくちゃくちゃにしてカメラの方に――おそらくあゆみの方に振り向いた、小さなラブの姿。 「それはラブが四歳の時の、七夕の写真よ。その日はちょうど雨が降っていて、織姫と彦星が会えないのを悲しんで、それで泣いていたの」 「そんな頃から……ラブはやっぱりラブなのね」 「クスッ、三つ子の魂、百までとはよく言ったものね」 「あれっ? これは……」 もう一枚めくりかけて、せつなの手が止まる。アルバムに挟まっていたのは、一枚の古びた紙切れだった。 ラブの書いた短冊なんだろう。そこには子供の文字で、「おりひめさまと、ひこぼしさまが、あえますように」と書かれていた。 あゆみはそれを見て微笑むと、もうそれ以上は何も言わずに、せつなにアルバムを預けて部屋を出た。 夜になって、せつなはアルバムを抱えてベランダに出た。まだラブとは口を利いていない。夜空を見上げると、美しい星が輝いている。 「天の川がハッキリ見える。今夜は織姫と彦星は会うことができそうね」 アルバムを開き、さっきの短冊を取り出した。 「せつな? 何を持ってるの?」 「きゃっ!」 突然声をかけられて、せつなはビックリしてアルバムを落しそうになる。するとページの隙間から、手にしていた短冊とは別の、もう一枚の短冊が落ちた。 「あ、いけない!」 「え? それって……」 せつなとラブがかがみこみ、二人の手が同時に短冊に触れる。 その瞬間。周囲の景色が一変した。 そこは広い草原だった。頭の上には、降るような星空。いや、その言葉の通り、時々空から、すーっと地面へと流れてくる光の筋がある。 草原のあちらこちらには、小さな丸い明かりのようなものがあって、良く見るとそれは巨大な金平糖のような形で、金や銀の光を放っている。 ラブとせつなが立っている場所の少し先は、どうやら崖になっているらしかった。そしてその手前――ラブとせつなの目の前には、小さな二人の女の子が立っていた。 一人は写真で見たままの姿――幼い頃のラブだった。そしてもう一人は―― 「あれは……イース?」 「ええ……信じられないけど、間違いなく私の子供の頃の姿よ」 二人の子供の会話は噛み合わない。今日のラブとせつなのような喧嘩ではないけれど、互いの主張はすれ違う。 「そうだよね! ひどいよね! だからあたし、『おりひめさまと、ひこぼしさまが、いつでもあえますように』って、おほしさまにおねがいしたんだ」 勢い込んで同意を求める小さなラブに、小さなイースが、不思議そうに首を傾げる。 「え? だって、いちねんにいちどしか あうことがゆるされないっていうのは、めいれいなんでしょ? だったら、『いつでもあえますように』っていうのは、おかしい」 「えぇ~、だって……」 「めいれいには、ちゃんといみがあるんだから、したがわなくちゃいけない。いまはまだ、そのいみがよくわからなくても」 小さなラブの大きな瞳に、じんわりと涙が滲んでいく。あ、泣きそう……と大きなラブが思った時。 「ん?」 小さなイースが、崖の下を覗き込んで声を上げた。 「あれって……あなたがいってた、おりひめさまと、ひこぼしさま?」 そこからは、まるで映画でも見ているように景色が流れた。 崖の下には銀色に輝く川。 そのこちら側の岸には淡い紅色の着物を着た女の人が、向こう岸には白い着物を着た男の人が、じっと見つめ合っていて――。 小さなイースが小さなラブの手を取って、二人で険しい崖を一気に駆け下りる。 その途中で、小さなラブが足を滑らせて、そして―― 大きなラブと大きなせつなは、再び元のベランダに戻された。 「今のは――なんだったの?」 「わからないけど……なんだか懐かしい気がする」 「奇遇ね……私もよ」 そう言って、せつなは拾ったばかりの、もう一枚の短冊を見る。 「――どうかもういちど、あのこにあえますように」 「「これって!!」」 ラブとせつなの声が揃う。今の夢がもし、本当に自分たちが幼い頃に見た夢ならば―― 「あたし、もしかしたら、もう一度あの子に会いたかったから……だから、昼間はあんなにムキになっちゃったのかな」 ラブがそう言って、せつなに小さく微笑みかける。せつなは、その大きな瞳をじっと見つめてから、小さな、けれどさっきよりも柔らかな声で言った。 「……ねえ、ラブ。私はやっぱり、天帝様が間違ってるとは思わない。だけど、ラブが『織姫と彦星がいつでも会えますように』って、願うことも間違いじゃないと思うわ」 それっきり、二人は黙って空を見上げた。 せつなは今の不思議な光景について――そして幼い頃に見た夢について、それ以上は何も話そうとはしなかった。 ラブもまた、その日は織姫と彦星についてもう口にすることはなかった。 やがて、ベランダの手摺に置かれた二人の手が少しずつ近付いて、いつしかしっかりと握り合う。 夜空には、織姫と彦星の再会を祝すかのように、美しい天の川が煌いていた。 複数2-1の三次創作です。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1224.html
迷探偵タルト/ドキドキ猫キュア つぼみ「きゃー!><」 えりか「どうしたっしゅ?」 美希「何事!?」 つぼみ「ラブさんが・・・ ラブさんが・・・」 ラブ「・・・」 せつな「まさか!! ラブ! ラブ!」 ブッキー「死んでる!!」 美希「いや・・・ 死んでないし」 六花「頭をうって気絶してるだけだから・・・」 タルト「これは 事件の匂いがするでぇ!! ピーチはん殺人事件や!!」 美希 六花「いや だから 死んでないし」 せつな「誰が 誰が 私のラブを><」 タルト「犯人は ワイがみつけたる! この名探偵の名にかけて!!」 つぼみ「すごい 自信です!?」 えりか「本当に大丈夫なの?」 タルト「ふっふっふ ワイにはもう 犯人はわかってるんやで(笑)」 ブッキー「本当なの!? 」 タルト「犯人は・・・ あんさんや!!」 つぼみ「・・・ えええ!! わたし!?」 えりか「どういうことよ!?」 タルト「第1発見者が 怪しい・・・ よくあるパターンや。それに あの壊された植木鉢が何よりの証拠!! 花を駄目にされて 堪忍袋が切れた勢いでブロッサムはんは ピーチはんを・・・。そして あたかも第1発見者を装ったんや」 せつな「・・・」 えりか「・・・」 美希「・・・」 ブッキー「・・・」 六花「・・・」 つぼみ「ち ちちち違います>< 私じゃありません!!」 せつな「お願い つぼみ 自首して><」 えりか「いつかはやると思ってたけど ついに・・・」 つぼみ「もう!えりかまで!! 本当に堪忍袋の緒が切れますよ!!」 美希「めちゃくちゃだけど 筋は通ってるわね・・・」 つぼみ「まって下さい! 私より怪しい人なら 他にいます!!」 タルト「ほほお それは 誰や?」 つぼみ「奏さんです!! この部屋に頻繁に出入りしてましたから 怪しいです><」 せつな「なんですって!?」 タルト「むむむ それは 怪しい 怪しすぎるで」 奏の証言 奏「確かに ラブのいる部屋には行ってたわ。響に会いにね」 美希「そういえば ラブと同じ部屋だったわね」 今更だが ラブ達はかれんの別荘に遊びに来ているという 設定である 奏「今日も 行ったけど ラブも響もいなかったから 仕方なく カップケーキだけ置いていったのよ」 タルト「それは 嘘やな」 奏「何でよ」 タルト「カップケーキがあらへんからや」 奏「そんな事知らないわよ!確かに置いたんだから!!」 タルト「往生際がわるいなぁ リズムはん」 奏「第一動機がないじゃない!」 タルト「あるで」 せつな「え!?」 タルト「悪夢獣と戦った時 メロディはんはピーチはんと共闘していた。 それにリズムはんは嫉妬したんや!! それに 今回も 二人は同室 リズムはんは気が気でなこったはずや!!」 六花「分かる 分かるわ その気持ち」 奏「同情しなくていいから!! 本当に響に会いに行っただけなんだって!!。てゆうか その理論だったら せつなのほうが 怪しいじゃない!」 せつな「どうして 私がラブを殺さなくちゃいけないのよ!!」 美希「いや 生きてるから」 奏「響に浮気したと思って 怒って 揉めた弾みにとか」 せつな「失礼ね! 私は そんな事しないわよ」 奏「冗談よ そんなに怒らないでよ」 せつな「とにかく 一番 怪しいのは奏よね」 奏「だから 違うって」 タルト「ん? これは なんや? パクっ これは・・・ カップケーキのカスや」 奏「誰かが食べたからなかったのね!!」 えりか「犯人は食いしん坊だね(笑)」 れいか「みなさん 何かあったんですか?」 みゆき「ラブちゃん!!」 黄瀬「そんな プリキュアで殺人事件がおきるなんて」 あかね「いや 死んでへんやろ」 なお「お腹すいた~」 あかね「さっき ケーキ食ってたやろ(呆れ)」 れいか「なおは 食いしん坊ですから・・・」 奏「ケーキ!?」 なお「美味しそうだったから つい・・・ ごめん><」 タルト「犯人はあんさんやー!!」 なお「え?え?」 タルト「盗み食いをしようとした所を見つかって ピーチはんをやったやんやな!!」 せつな「そんな たかがカップケーキの為に ラブは・・・」 なお「違うよ~!! 私が行った時は誰もいなかったんだよ><」 せつな「そんな事行って~><」 美希「せつな 落ち着きなさいって」 ダークプリキュア「あれれ? あんな所に ほうきが落ちてるよー?」 タルト「なんやて?」 えりか「ダークプリキュアって あんなキャラだったっけ・・・?」 タルト「ほうき・・・ 開いた窓・・・ そうか そういうことやったんや」 ブッキー「タルトちゃん・・・?」 タルト「謎は すべて 解けた! 犯人はマジカルはんや!!」 リコ「ちょっと いきなり 呼び出してなによ!!」 タルト「この事件の凶器 それは マジカルはんのほうきや」 みゆき「えー!?」 あかね「なんやてー!!」 タルト「マジカルはんはほうきが下手でよく落ちる」 リコ「落ちてないし!! 」 タルト「今回も そのドジのせいで起きた悲劇やったんや」 リコ「ドジってなによ!!ドジって!!」 タルト「バッディを襲った時と同じように マジカルはんは あの窓からこの部屋につっこんでしまったんや そして 運悪く そこにいたピーチはんに激突してしまい そのせい で ピーチはんは・・・」 せつな「・・・」 美希「・・・」 ブッキー「・・・」 六花「・・・」 つぼみ「・・・」 えりか「・・・」 リコ「ちょ!? なに その 冷たい目は!! 違うわよ!? だって 私 ほうき持ってるし」 やよい「あ」 奏「リコじゃないとすると 一体誰が」 みらい「あったー わたしのほうき><」 モフルン「みつかってよかったモフ♪」 せつな「・・・」 美希「・・・」 ブッキー「・・・」 つぼみ「・・・」 えりか「・・・」 奏「・・・」 六花「・・・」 みゆき「・・・」 あかね「・・・」 やよい「・・・」 なお「・・・」 れいか「・・・」 リコ「」 みらい「リコ? みんなも どうしたの?」 タルト「犯人はあんさんやー!!」 みらい「今 犯人っていいました!?」 せつな「あなたが ラブをやったのね!! 」 リコ「みらい・・・あなた なんてことを」 みらい「違うよ~>< 私は無くしたほうきを探してただけだもん」 ラブ「う~ん」 せつな「ラブ!!」 ラブ「あれ? みんな・・・ そうか 私」 美希「一体 何があったの!?」 ラブ「みらいちゃんのほうきがあったから 本当に飛べるのかな?って思って 響ちゃんと 乗ってみたら コントロールできなくて 勢いよく落っこちちゃって いや~まいった まいった(笑)」 せつな「もう 人騒がせね」 六花「そっちが勝手に騒いでただけだと思うけど」 奏「そういえば 響は?」 ラブ「あれ?」 みゆき「ねえ ねえ 下で寝てるの 響ちゃんじゃない?」 リコ「下の茂みのほうに落ちてたのね・・・」 響「・・・」気絶中 タルト「まあ、これで 事件解決やな♪」 つぼみ「待ってください」 奏「よくも疑ってくれたわね」 なお「逃げるなんて筋が通ってないよ!」 リコ「どんな魔法をかけてやろうかしら!!」 みらい「リコちゃん 私も手伝うよ!」 タルト「まって かんにんしたってや~>< 助けて~」 5人「ま~て~」 タルト「うーん うーん みんな 許してや・・・ うーん うーん」 シフォン「ぷりぷ?」 と 言う 夢をみていた タルトでした 迷探偵 タルト 完
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/57.html
今日は体育祭。借り物競走に出場するせつな。 せつな(さあて、何が書いてあるのかしら) 折られた紙を広げると、そこには見覚えのある字で「2年 桃園ラブ」と書いてあった。 せつな(これって…) せつなが辺りを見回すと、自分に向かって大きく手を振るラブの姿。 せつな(もう、ラブったら…) せつなが恥ずかしい友人の方に近づくと、その子は嬉しそうにせつなの手をとった。 ラブ「行こう、せつな」 せつな「もう。これ、あなたの仕業ね」 ラブ「えー?なんのことー?」 せつな「とぼけたって、無駄なんだから」 ラブ「エヘヘー、バレちゃったか」 せつな「あれだけ分かりやすかったら、当然よ」 らぶ「アハハハハ…///」 せつな「フフ…///」 二人は手をつないで笑いながら、ゴールテープを破るのだった。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/181.html
「ねぇ、ラブ――――私のこと、好き?」 「え?」 答えを聞く前に、せつなは相手の唇を塞ぐ。 驚く彼女の手首を掴み、壁に押し付けて、口内を舌で蹂躙する。 「ん、んんっ――――」 もがくラブ。苦しみから生れる挙動は、しかし、拒絶のそれではない。それを敏感に感じ取って、せつなは 思う存分に彼女を味わう。 やがてラブの体から力が抜けていき、応えるように舌を絡ませ始めて。 クチュ、クチュという濡れた音が。初めての、そして淫らなキスの感覚が、彼女の思考を焼きつかせる。 女の子同士なのに――――そんなモラルも、一瞬に消え去る。もっと味わいたい。この快楽を。 「ね、ラブ。私のこと、好き?」 唇を離し、耳元で問いかけるせつなに、ラブは頬を染めながら、コクリ、と無言で頷く。 「そう。いい子ね」 「――――んんっ」 耳たぶを軽く噛まれて、背筋がゾクリとする。けれど、嫌な感覚じゃない。腰が砕けそうな快感に、幼い少女は 翻弄されて。 「ね。言って? 私のこと、好きって」 問いかけは、誘惑。そして、強制。 耳元で囁かれるだけで、くらくらする。けれど、それだけ。 もっと触れて欲しい。その唇で、自分を味わって欲しい。 だから。 「好き、だよ――――せつな」 「私もよ、ラブ」 もう、立っていることすら難しいのか。目を閉じてしがみつくラブは、気付かない。せつなが薄く、しかし邪まな 笑みを浮かべていることに。 なんて、簡単。これがプリキュアだなんてね。 心の中でそう呟きながら、せつなは――――イースは。 ラブの首筋にキスの嵐を降らせながら、彼女の服の中に手を潜り込ませ、胸をゆっくりとまさぐるのだった。 Eas of Evanescence 占いの館。せつなの――――イースの居室。 隣で眠るラブの、くすんだ金の髪をせつなは手で梳る。 一体何度、彼女は達したのだろうか。両手では到底、数え切れないほど。あまりの快楽に息も絶え絶えに なるラブを、せつなは休むことなく責め続けた。 もうダメ。もうダメだよ、せつな。ああっ―――― 言葉では必死に拒んでいても、彼女の体は貪欲だった。 せつなの指に、唇に、舌に。 翻弄されて、もっともっとと求めてくる。それを敏感に感じ取って、彼女はラブの望む快楽を与え続ける。 そして、彼女が達しようとした瞬間に、尋ねるのだ。 「ねぇ、ラブ。私のこと好き?」 「好きっ!! 好きだよ、せつなっ!! だから――――っ!!」 拒んでいたことも忘れて、必死に求めてくるラブに、せつなは満足したように笑って、彼女を天国へと導く。 「――――――――っ!!」 体を強張らせて、奔放に喘ぐラブ。だが、彼女が満ち足りたと思っても、せつなはそれ以上の快楽を、幼い体に 注ぎ込む。そしてまた、尋ねる。 「ねぇ、ラブ。私のこと好き?」 そうしてせつなは、ラブの心に楔を打ち込んでいった。 刷り込んで、確かなものにしていった。 抗えないように、するために。 自分のものに、するために。 眠る彼女の額に、口付けをする。んん、と身をよじらせ、半分まどろみながらも目を開ける彼女を抱きしめる。 素肌と素肌を、重ね合って。 また耳元で尋ねる。 「ねぇ、ラブ。私のこと好き?」 「好きだよ、せつな――――けど、もうダ・・・・・・んんっ」 彼女の言葉を最後まで聞くことなく、せつなはラブの胸に顔を埋め、桃色の乳首を唇に含む。そして舌で何度も なぞる。 強張っていたラブの体が、徐々に弛緩していく。汗で冷えていた体が、徐々に熱を帯び始める。吐息には甘い ものが混じり始め、せつなの舌が胸を這うたびに、ビクンと腰が跳ねる。 「あんなに何度もイッちゃったのに、まだ足りないんだ?」 ラブの体にのしかかりながら、半身を起こし、せつなはラブの顔を覗き込む。その顔には、微笑み。淫らな、 かつ、いたぶるような。 彼女の言葉に、ラブは顔を真っ赤に染めて、顔を背ける。そして恥じるように、自分の体を抱きしめて。 だがせつなは、そんな彼女の首筋にキスをして。 「いいのよ、ラブ。もっと気持ち良くなって? 私がいっぱい、イカせてあげる」 だから、とせつなは続ける。 「私のこと、好きって言って?」 それを聞いて、ラブは。 一度、目を閉じて。 そしてうるんだ瞳で、彼女を見上げる。 「好きだよ、せつな」 それを、合図にしたかのように。 せつなの指が、ラブの秘所に触れる。甘い蜜に潤うそこを、慈しむようにそっとかきまわす。ふあ、と堪え切れず 喘ぎ声をあげるラブ。 せつなの舌が、ラブの唇を、首筋を、胸を、乳首を這い回って。 徐々に激しくなる動き。淫らな音が室内に響き渡る。自分の体から生れる響きに、ラブは酔いしれる。まるで 自分が楽器になったよう。その奏者は、愛しい人。 やがて全てが白濁していき、何も考えられなくなる。せつなが触れているところだけが、自分のように思えてくる。 「ねぇ、ラブ」 いつものように問いかけようとする彼女の唇を、ラブは自分から塞ぐ。驚くせつなの舌を追いかけて、自ら絡ませて。 息が苦しくなって、ようやく離すが、彼女の首に回した腕は離さない。そしてラブは、自分から言う。 「好き。好き。大好きだよ、せつな――――っ!!」 言い終わると同時に、頭の中を閃光が駆け抜けて。体が意思を離れて何度も跳ねるのを感じながら、ラブは。 幸福の絶頂の中で、意識を薄れさせていったのだった。 馬鹿な子。 そうせつなは心の中で呟く。 自分を信じ切って。私が何を考えているかも知らないで。 リンクルンを奪うことは出来なかった。だから彼女は、標的を変えた。リンクルンを奪えないのなら、プリキュアと なる少女の心を奪えばいい。そう、せつなは考えたのだ。 そして手始めに、自分に最も近い少女、ラブの体を奪った。心と体は、直結するものだから。狙い通り、彼女は せつなに心と体を開いた。 寝息を立てるラブを、冷めた目で見下ろす。ぐっすりと眠る彼女からは、警戒心の欠片も感じない。戦士としての、 自覚も。 こんな子が、プリキュアで――――何度も辛酸を舐めされてきたなんて。 ギリッ、と奥歯が嫌な音を立てる。 せつなの手が、ラブの細い首に伸びて。 今なら、殺せる。驚く暇すら、与えずに。 そう。少し、指に力を入れるだけで。 ラブの、プリキュアの命が自分の手の中にあるのだという感覚に、せつなは酔い痴れる。 だが。 まだ、その時じゃないか。 思いとどまって、せつなは指を解く。 まだあと二人いる。蒼乃美希と、山吹祈里。彼女達は、ラブと違って、せつなに警戒心を抱いている。だからこそ、 ここでラブがいなくなってしまっては、彼女達に近付くことすら出来ないだろう。 けれど、いつか。 何も知らずに眠る彼女を見て、せつなは薄く笑う。 いつか、私の手で。 幸せから、不幸のどん底に叩き落して上げる。その時は、あなたの命も。 それまでは、こうしていてあげる。 あなたの好きなせつなでいてあげる。 思いながら、せつなはラブの隣に横になり、目を閉じる。 まるで仲睦まじい恋人のように、寄り添いながら。 せつなは、夢を見た。 夢の中で、彼女はラブに抱きしめられていた。 「ねぇ、せつな。私、せつなのこと好きだよ?」 何度も問いかけて、言わせて。心に刻み込ませた台詞。従属の言葉。 だがそれを口にするラブの声は、悲しみに満ちている。 「せつな――――何をそんなに、怖がってるの?」 怖い――――? 違う。私は怖いなんて思ってない。思ってなんかない。 何度も言わせているのは、彼女を自分のものにする為。 確かめないと不安だなんて、思って、いない。 思ってないのに――――どうして涙が、流れそうなんだろう。 せつなは、夢を見た。 もしかしたらそれは、現実だったのかもしれないけれど。 せつなは――――イースは。 それを、夢だと思い込むことにした。 4-329へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/216.html
「せつなぁっ!」 ノックもせずにドアをばーんと開けて、せつなの部屋に入ってきたラブ。 「ラブ?どうしたの?」 「ここに座って」 「え?どして?」 「いいからここに座って!!」 そういうラブはなんだかむくれ顔。 反論を許さないオーラを出しながらせつなのことを凝視している。 (私何か、ラブを怒らせるようなことしちゃったかしら) 一通り思いを巡らせてみるが、心当たりになるような事は、ない。 「もう……一体どうしたのよ」 そう言いながらも言うとおりにするせつな。 ラブはそのせつなの後ろに歩を進め、自分も座る。 その姿勢はせつなと丁度背中合わせの体育座り。 (え、この姿勢って……?) これは最近、別の場所で、別の人と取ったことある姿勢と同じ。 それに思い立ったせつなに応えるように、ラブが声を上げる。 「あたしはここにいたいの!」 ああ、そういうことか、とせつなは思う。 だから、その言葉に返すべき言葉を口に出す。 「……どして?」 対するラブの言葉も、あの時と同じ。 「どうしても!!」 「……」 「……」 「……プッ」 先に沈黙を破ったのは、つい噴きだしてしまったせつな。 「……な、何よせつな、何がおかしいのっ?」 「クスクス、だってラブ、美希に嫉妬してるんだもの」 「しししし嫉妬?!何言ってんのよせつな! あたしが美希タンに嫉妬なんてするわけないじゃない!」 「じゃあなんで、こんなことしたの?」 「……う」 せつなの問いかけに、返答に困るラブ。 「いやーーーーっ、あたしが熱出して寝込んでる時に美希タンとせつな、 こんな感じで凄く良い雰囲気だったって聞いてさー、 これは是非あたしも体験してみたいなーって思って……」 「……」 「……すみません、嫉妬してました」 「うん、素直でよろしい」 認めたラブの背中に、せつなはもたれかかる。 美希と違って身長差が無いからちょっと物足りないけど、これはこれで心地良い。 「でもまさか、ラブが嫉妬するなんて、思わなかったわ」 「あたしも思ってなかったよ。でも、私の知らないところで、美希タンとせつなが 仲良くしてるって思ったら、なんだかよくわからない気持ちが私の中でいっぱいになって それであたし、ああ、嫉妬してるんだって、気づいちゃった」 「……」 「あたし、嫌な子だよね。 美希タンもブッキーも大切な友達なのに、 せつなと仲良くしているのは、あたし抜きでせつなと仲良くしているのだけは嫌なの。 こんな嫌な子のラブさんじゃ、せつなにも嫌われちゃうってわかっているのに」 「嫌じゃないわ」 「え?」 せつなからの意外な返事に驚くラブ。 思わずせつなの方を向いたその顔に、背中合わせのままで 顔だけを向けて、せつなは続ける。 「私は、ラブに嫉妬されるの、嫌いじゃないと思う。 ……ううん、嫌いじゃないわ」 「え?何で……」 「だってそれは、ラブが私の事を一番に思ってくれているってことでしょ? それって、すごく嬉しいことだわ、少なくとも、私にとっては」 「せつな……」 「それともこんなことを思ってる私は変なのかしら?」 「変じゃない、せつなは変じゃないよ! だってあたし、本当にせつなのこと一番大切に思ってるし…… ……あ」 「ふふっ、ありがとう、嬉しいわ、ラブ」 そう言って悪戯っぽく微笑むせつな。 言わされた。 そのことに気づいたラブは耳まで真っ赤になり。 「や、やだ……あたしったら……」 そのまま自分の膝に顔をうずめてしまうのだった。 「……もう、恥ずかしいなあ、まだ顔が熱いし。 せつながあんなに意地悪だとは思わなかったよ」 その後、ようやく顔を上げたラブはせつなに抗議する。 「そうね、ちょっとやりすぎたかも。ごめんなさい、ラブ」 素直に謝るせつな。 でも、とその後に付け加えて言葉を続ける。 「いつもラブに振り回されてるから、そのお返し、かな」 「……そっか」 せつなの言葉に怒るでもなく、素直に納得するラブ。 「ねえせつな、なんかせつな……変わった?」 「……うん、そうかも」 少なくとも、ラブの家に来たばかりのせつなだったら、 こんな風にラブをからかうような事は言わなかっただろう。 それが変わったのだとしたら。 「だとしたらそれは、ラブのおかげよ。 ……あ、勿論ラブだけじゃなくて、美希やブッキーのおかげもあるけどね。 もしかしたらラブの知らないところで、二人に変えられちゃってるのかもね。ふふ」 「あーっ!またそういうことを言う! 今日のせつなは本当に意地悪だよっ!!」 そう言いながらも。ラブの表情は、笑顔。 「うふふ、ごめんなさい」 謝るせつなの表情も、また笑顔。 しばらく二人は、背中合わせの姿勢のままで笑いあうのだった。 4-76逆襲のせつな現る
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/135.html
「罰当たり?」/◆BVjx9JFTno 「ようこそ、お参りくださいました」 頭を上げたその姿を見て、 自然に、ため息が出た。 清楚な、白衣。 あざやかな、緋袴。 凛とした、微笑。 湖水のように、澄んだ瞳。 きれいな黒髪が、 巫女装束に映える。 「わはー!せつな、超似合ってるよ...」 「ちょっと、完璧なんだけど...」 「ぜったい、似合うって信じてた!」 働いている最中なので、 無駄話もなし。 それどころか、あたし達にも 他の参拝客と同じように、 敬語で接してくる。 完全に、お仕事モードだ。 四つ葉町にある神社は、 初詣で大にぎわい。 せつなに、初詣期間の 助勤のお願いが来た。 せつなは、もちろん 二つ返事。 あれっ、みんなで 初詣に行く予定は...? まぁいいか。 人から頼られると、せつなは 必要以上に頑張るタイプだから。 お祓いの呼び出し。 控え室への案内。 破魔矢やお守りの販売。 おみくじの案内。 御神酒の振る舞い。 せつなは、微笑みを絶やさず くるくると働いている。 あたし達が注目するのと 同じくらい、他の参拝客も せつなに注目している。 せつなが、お守りの 売り場に移動する。 お守り売り場に、 殺到する行列。 せつなが、御神酒の 振る舞いを始める。 何度もおかわりする、 おじさん達の行列。 せつなに案内してもらうために お祓いの順番を調整している 家族まで居る。 何だか、せつながあまりに 綺麗すぎて、遠くなっちゃったみたい。 嬉しいんだけど、 ちょっと、さびしい。 おみくじも、小吉。 「逃げられぬよう注意」だって。 おみくじを結んで、 ふと振り返る。 遠くで顔を起こしたせつなと、 目があった。 一瞬だけ、せつなが ニコッとわらった。 胸が、どきっとして あたしは、2歩ほど後ろに下がった。 「ラブ、どうしたの?」 「ラブちゃん、大丈夫?」 「うん...ちょっと」 あぁ。 ノックアウトされちゃった。 何度もおみくじ引いたり、写真を撮ったりして、 結局、夕方まで神社に居た。 境内を後にしようとしたあたし達は、 古札回収の箱を入れ替えている せつなを見つけた。 「せつな!お疲れさま!」 「ラブ...ごめんね、あんまり構えなくて」 「ううん!それよりもさ、すごく似合ってるよ!」 「ありがとう...何だか照れくさいわ」 「そんなことないよ、すっごく似合ってる!」 「アタシも自信を持って言うわ。完璧よ!」 「そう...かな」 せつなが、顔を赤らめる。 「せつな...この服って クリーニングに出すよね!」 「ええ、神社の方で 出してくれるらしいけど...」 「いやいや!これはやっぱり 使った人がちゃんと洗って返さないと!」 「そうなの...じゃあそう言っておくわ」 「うん!じゃああと少し、頑張ってね!」 「ええ、ありがとう」 せつなが持ち場に戻っていく。 「ちょっと、ラブ」 美希たんが肘であたしの脇腹をつつく。 「洗って返す前に、何かしようとしてるでしょ」 さすが。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/338.html
第7話 祈り せつなが消えてどれくらい経ったのか。 時間の止まった部屋に祈里もまた、足止めされている。 一人取り残された祈里は乱暴にベッドに身を投げ出した。 ふわり……、とせつなの香りが全身を包む。 (匂いだけなら………) 匂いだけなら、まだこんなにも愛しい気持ちになるのに。 辛い。そう思っていた頃がいかに幸せだったか思い知る。 ふと目が合う。不意に肩が触れ合う。笑顔であだ名を呼ばれる。 それだけが、自分に手に入るすべてだった頃が。 辛い、そう思ってた。自分を見てくれない。気持ちに気付いてくれない。 どんなに焦がれても、手が届かない。 眠れぬ夜を過ごし、ラブへの嫉妬で身を揉んだ。 けど、その思いは決して穢れたものではなかったはずだ。 よく、こんな事が出来たものだと思う。自分だったら死にたくなるだろう。 自分の行為を棚上げして、他人事のようにそう思う。 酷い、事をした。誰が聞いても眉をひそめ、自分を糾弾するだろう。 『許して』、その言葉を口にするのすらおこがましい。 「好きよ」 「本当に、不思議だけど」 せつなが自ら発した言葉だとしても、本心だと言う保証なんてどこにもない。 逃れるために、口にした保身のための台詞だとしてもおかしくはない。 心のない、虚ろな繰り事を飽くことなく強要してきたのは、 他ならぬ祈里自身なのだから。 「……『好きよ』だって。」 馬鹿にしてるの?わざと投げやりに聞こえるように声に出してみる。 上手く、いかない。 嬉しい、確かにそう感じている自分がいるから。 許してもらえるの? あり得ない事を考える。 どうしたって、言い訳すらするのは卑怯だろう。 確かに辛かった。どうしようもなく。 しかし、だから何だと言うのだ。 そんなこと、せつなには関係ないのに。 一度たりとも、せつなに直接思いを伝えた事なんてなかった。 それを、せつなが気付かないからと言って、彼女に何の責任があると言うのだ。 自分の狡さを直視すれば、自分が壊れてしまう。 本当は分かってた。せつなが自分を見てくれない。そんなのただの言い訳だって。 わたしは、自分のものにならないと分かってる物を壊してしまいたかっただけ。 だから、その責任を壊される本人に擦り付けようとした。 『せつなちゃんが悪いんだからね』 そう言いさえすれば、よかったのだ。 そうすれば、せつなに何をしても自分は悪くない。そう、 自分を騙す事が出来たから。 言い訳さえ手に入れれば、せつなにはいくらでも辛く当たれた。 体を弄ぶばかりでなく、心も苛んだ。 人として、こんな事は絶対に言われたくないだろう言葉を敢えて投げ付けてきた。 せつなは一度として反論なんてしなかった。 呼び出せば、いつでも応じる。 最初は震えていた。特に初めて呼び出し、わたしが本気でなぶる気だと 理解すると紙のように白く血の気を引かせていた。 始めの数回は、終わるといつも堪えきれないように泣き叫んだ。 許してくれと言う懇願を、わたしは子供の戯れ言程にも相手にしなかった。 せつなを完全に支配下に置いたかのような、歪んだ満足感。 わたしは、どうにでも出来る、と。 しかしその内、せつなは心を閉ざし、人形のように空の体を差し出す事で、 自分を守ろうとするようになった。 心の中から自分を消し去ったせつなに祈里は苛立ち、ただ、せつなをいたぶる。 いつの間にか、そんなふうになっていた。 壊れてしまえばいい……本気で、そう思いながら。 心は諦める。せめて体だけでも。………そう思っていたはずなのに。 せつなの体の甘美さは祈里を陶然とさせた。 夢中で貪り、すべてを忘れた。 しかし、せつなの心は祈里の一切を無視した。 拒絶ですらない。せつなは自分を弄ぶ祈里を、心に蓋をし、完全に閉め出した。 体は確かに愛撫に応える。でもそんなものは、ただの反射に過ぎない。 目にゴミが入れば涙が出る。食べ物を口にすれば唾液が涌く。 それと、同じ事。分かっていた。 だから、敢えてせつなの体の変化を事細かくせつなに聞かせた。 (気持ちよさそうね。ラブちゃんじゃなくても、感じちゃうんだ。) ラブの名を口にしたときだけ、せつなの瞳が揺らぐ。 愛撫を快感として受け入れる自分の体に罪悪感を覚えている。 そんなせつなの様子に祈里は暗い満足感を覚えていた。 「もう、ここには来ないわ。」 何がせつなにそう言わせたのかは分からない。 今のせつなに鎖を断ち切り、振りほどく力などないと思っていた。 でも目をそらさず、そう、確かにせつなは言い切った。 本気で、ラブに話す気なんだろう。 わたしが好き。わたしの気持ちが悲しい。 せつなは、真っ直ぐに目を見てそういった。 先に目をそらしたのは、わたしの方。 (わたし…勘違いしちゃうかもよ……) 謝れば…、許してもらえるのかも……って。 謝るなんて卑怯だろう。 傷付けた相手に、許しを強要するなんて。 後悔してる……なんて、口が裂けても言ってはいけない。 謝って楽になる。わたしに、そんな贅沢は許されないはずだ。 踏みつけにした相手にすがって、許しを乞う。 自分にそんな勇気があるとは思えなかった。 せつなは自分の部屋に戻るなり、へたり込んだ。 (アカルンって便利よね……) こんな姿、誰にも見られなくてすむもの。 立っていられない。平衡感覚がおかしい。ベッドまで這って行く気力もなかった。 蛇口が壊れてしまったかのように、涙が止まらない。 私は、おかしくなってしまったんだろうか。 祈里の言葉が頭を回る。 「わたしのこと、考えたことなんてないくせに。」 本当に、その通りだったな。と今さらながら感じる。 今まで愛情も、優しさも何一つ与えられた事はなかった。 その私が、生まれ変わって溢れんばかりの愛情に包まれた。 家族、友達、そして何より大切な人。 空っぽだった心身にそれらは惜しむことなく注ぎ込まれ、溢れて、こぼれていった。 そして私は、慣れない幸福に溺れてしまったのかもしれない。 こぼしてしまったものの中に、取り返しのつかない大事なものがあったかも知れないのに。 祈里は大好きだった友達。ラブを除いて、「東せつな」として 生まれ変わってから、初めて出来た友達。 ラブとは違う、私がイースだった過去を知った上で、 微笑んでくれた。 『気持ちよくなれれば、誰でもいいんじゃないの?』初めての夜、祈里に言われた。 深い意味はなく、ただなぶるために投げられたのだと言う事は分かる。 でも今になって、心に突き刺さる。 (本当に、そうだもの。) 半分当たっていた。今なら、そう思う。 ラブとはまた違った、控え目で柔らかい祈里の空気が好きだった。 祈里といるとホッとする。ゆったり時間が流れて、癒されるって こんな感じなのかと知った。 でも私は、本当に祈里が好きだったの? ただ、祈里がくれる心地よい空間が好きだっただけ。 自分を優しく包んでくれる空気。 そう、心地よい気分にさせてくれるなら誰でもよかったのかも知れない。 祈里でなくても……。 そして、ふと、心をよぎった思いがある。 どれほど、心身が悲鳴をあげても私はラブに抱かれたかった。 例えラブの目に探るような固いしこりが見えても。その手から優しさが消えても。 体だけでも繋がっている。そう思えるだけで、嬉しかった。 (祈里も……そうなの…?) 心が手に入らないなら、体だけでも。 無理矢理にでも体を重ねれば、何かしら相手の心に自分を刻めるかも知れない。 祈里を、自分に重ねてみた。 もし、ラブが…自分を見てくれなかったら。 ただの友達。それだけならいい。我慢できる。みんな同じなら。 誰も特別な人などいなく、みんなと同じ、ただの仲の良い友達。 でも、そのラブの目にはいつも他の誰かが映っていたら。 『あなただけが特別』、誰が見てもそう思う相手が、すぐ身近にいたら。 ラブが自分を他の誰かの代わりに抱く。 どれほど体を重ねても、ラブの心に自分の影すらない。 愛し気に愛撫を繰り返しながら、他の誰かの名前を呼ぶ。 考えただけで、心が凍り、ヒビが入る気がする。 たぶん、正気では、いられないだろう。 私が、祈里にしていたのは、そういう事。 (もう、止めなければいけない。) 祈里の心が壊れてしまう前に。 そう思った日、初めて祈里を思って涙が出た。 ラブは許してくれないかも知れない。 穢らわしい物を見るような目で見られるかも知れない。 けど、ラブにどう思われようと、側にいることは出来るはずだ。 ラブが、許してくれなくても私がラブを好きでいる事は出来るんだから。 私が心を閉ざし、踞っている間にどれだけラブも祈里も傷付いただろう。 自分が一番辛いと思い、目も耳も塞ぎ、過ぎるはずのない嵐をやり過ごそうと 意味の無い我慢を重ねていた。 私さえ、ちゃんと目を開いていれば、もっと早く終わらせる事が 出来たはずなのに。 (私って、本当に馬鹿……) 今日だって、祈里とちゃんと話そうと思って行ったのに。 いざ、祈里を前にすると体がすくんだ。きっぱり拒否する事も出来ず、 伸ばして来た手を押し留めるのが精一杯だった。 それに……、祈里と話すために行ったのに、口から出るのはラブの事ばかり。 あれではますます祈里を傷付けただけではなかったのか。 最後に、取って付けたように『祈里が好き』。 後は逃げるように帰ってきてしまった。 優しくしてくれるから、祈里が好きだったわけじゃない。 何を言われても、どんな事をされても嫌いになんてなれなかった。 だから、もうこんな事はやめにしたい。 そう、伝えたかったのに。 祈里は、私の言葉を信じてくれただろうか。 もう、元には戻れないのかも知れない。 来てしまった道を後戻りは出来ない。 けど、また違う道に進む事は出来るのではないか。 話せばすべてが壊れてしまうかも。 でも、このまま暗い穴の中へみんなで堕ちていくよりは、 ずっとマシだと信じたい。 まだ、間に合う。……そう、信じたかった。 (………お願いします。) 祈った事なんてなかった。でも、今は何かに祈らずにはいられなかった。 第8話 ただ、好きだからへ続く